【うまみ県あいち】知られざる多彩な発酵食文化
~風土の恵みや歴史を味わう発酵ツーリズム~
日本の中でも独特の食文化を持つといわれている愛知県。その味わいの源には、味噌・醤油・みりんなどの「発酵食文化」があります。
煮込みうどんや、味噌かつ、ひつまぶしなどの愛知グルメ「なごやめし」には、豆味噌やみりんが欠かせません。愛知県には他にも、酢や日本酒、漬物など、発酵食文化が生み出す「多彩なうまみ」が溢れています。
「あいちの食に発酵あり!」
この記事では、愛知県における発酵食文化の背景と魅力をご紹介していきます。
さぁ、一緒にあいちの発酵を知る旅に出かけましょう。
●目次
あいちの風土によって育まれた発酵食文化
なぜ愛知県に独特の「発酵食文化」が根付いたのでしょうか。
その理由は、発酵に適したあいちの風土にあります。
発酵とは、微生物の働きで食べ物がおいしくなること。味噌や醤油、日本酒などがその代表ですが、微生物が働くためには一定の環境が必要です。愛知県の気候は、夏は極端な暑さがなく、冬は厳しい寒さを避けられる温暖さがありますが、これが、微生物が元気に育つためのちょうど良い環境なのです。
発酵には温度だけでなく湿度も重要です。湿度が高すぎても低すぎても発酵は上手く進みません。愛知県は伊勢湾に面しているため程よい湿度が保たれ、発酵のプロセスに理想的な条件が備わっています。
また、愛知の発酵食文化の豊かさには、歴史的背景も深く関わっています。古くから海運業が栄えたこの地域では、さまざまな土地から原材料や発酵技術が持ち込まれました。そうして海の恵みと内陸の農産物が融合し、愛知独自の発酵食品が誕生したのです。
知れば知るほど奥深い、あいちの発酵食品を深掘り!
発酵の主役となるのは「こうじ菌」と呼ばれる微生物です。
こうじ菌の働きで米や大豆などの原料が変化すると「こうじ」ができ、こうじを使って味噌やしょうゆなどが製造されます。こうじ菌は、主なものだけでも100種類ほどありますが、こうじ菌のメーカーは全国でも数えるほどしかありません。そのなかでも、愛知県の企業が高いシェアを占めています。
「豆味噌」から「たまりしょうゆ」が生まれ、「酒」の酒粕から「酢」や「みりん」が生まれ、みりん粕から「漬物」が生まれ……と、食品同士には深いつながりも。背景のストーリーを知るほどに、奥深い発酵食の世界が広がります。
ここでは、あいちの発酵食品を一つずつ詳しく見ていきましょう。
・味噌 ~ 徳川家康も愛した「豆味噌」のふるさと ~
あいちの食卓に欠かせない調味料が「味噌」。愛知を中心とした東海地方で愛されている「豆味噌」は、他の地域とはちょっと違う、濃い色と濃厚なうま味が特徴です。
豆味噌の原料は、大豆、塩、水のみ。この三つの原料を長い時間かけてじっくりと熟成させることで、うま味がギュッと濃縮されます。見た目が黒っぽいので、塩辛いのかな? と思うかもしれませんが、実は豆味噌は塩分控えめ。長期保存が可能なことから三河武士にも重宝されたといわれているこの味噌が、尾張・三河地方の代表的名物グルメ、味噌煮込み、味噌カツ、味噌おでんなどの原点となっています。
実はこの豆味噌、徳川家康も愛したと言われています。家康の生まれた岡崎には、創業からずっと変わらない製法で八丁味噌を作り続けている老舗の味噌蔵が二軒あります。
戦国時代、味噌は武士たちの栄養源として重宝されましたが、特に豆味噌は大豆がたっぷりなので、体を動かすのに必要なアミノ酸が豊富。長寿で有名だった家康の健康を支えたのは、豆味噌だったのかもしれませんね。
・しょうゆ ~ あいちが生んだ二つの個性!「たまり」と「白」~
あいちには、他ではなかなか味わえない、特別なしょうゆがあります。それは「たまりしょうゆ」と「白しょうゆ」。この二つのしょうゆは全く異なる個性を持っています。
まずは「たまりしょうゆ」。これは、豆味噌を作るときにできる、とろ〜りとした液体を集めたものです。豆味噌のうま味がギュッと詰まっていて、濃厚な味わいが特徴。お刺身やお寿司につけると素材の味が引き立ち、あいちの郷土料理「ひつまぶし」にも使われています。見た目は濃い色をしていますが、意外と塩分は控えめ。小麦を使っていないものもあるので、小麦アレルギーの人も安心して食べられます。
そして、たまりしょうゆとは正反対なのが「白しょうゆ」。名前の通り、色がとても薄いのが特徴です。江戸時代後期に三河地方で生まれたこの白しょうゆの魅力は、素材の色や風味を邪魔しないこと。お吸い物や茶碗蒸し、卵焼きなどに使うと、素材本来の味が楽しめます。
あいちに来たら、ぜひ「たまりしょうゆ」と「白しょうゆ」を試してみてください。きっと、しょうゆの奥深さに驚くはずです。
・みりん ~ あいちが誇る「和のリキュール」三河みりんの世界 ~
甘辛いあいちの味に欠かせないのが「みりん」。三河地方で作られる「三河みりん」は、全国に誇るブランドです。
三河みりんの発祥の地である碧南(へきなん)市は、醸造に適した気候と海運に恵まれていたため昔から酒造りが盛ん。そこで、余った酒粕を使って、みりんを造るようになったのが始まりだそうです。砂糖が貴重だった江戸時代には、甘いみりんは大変重宝されたそう。今も江戸時代から続く醸造元が、伝統的な製法でみりんを造り続けています。
三河みりんの造り方はちょっと特別で、蒸したもち米に米麹と焼酎を混ぜて仕込みます。こうして造られたみりんは、まろやかで上品な甘さと、深いコクが生まれます。
三河みりんの風味は海外でも評価が高く、日本生まれの「和のリキュール」としてシェフやパティシエからも注目されています。料理に照りやツヤを出したり、素材の臭みを消したり、煮崩れを防いだり。海外でもみりんが使われていると聞くと、不思議な気がしますね。
・酢 ~ あいちの酢が、江戸の寿司ブームの火付け役!? ~
寿司や酢の物、ドレッシングなど、さっぱりとした料理に欠かせない「酢」。世界最古の調味料とも言われている酢は、お米や麦、リンゴなどをアルコール発酵させてお酒を作り、それをさらに酢酸発酵させることで作られます。
江戸時代、酢はとても高価なものでした。そこで、あいちの食酢メーカーの創始者が、酒造りの副産物である酒粕に着目。酒粕から酢を造り江戸に売り込んだところ、これが大ヒット。江戸っ子たちの間で、握り寿司が大流行しました。この酒粕から仕込んだ酢は「赤酢」と呼ばれ、まろやかな甘みと旨味が特徴。今でも、伝統的な江戸前寿司店では、赤酢が使われています。
現在、日本で主流なのは、お米を原料にした米酢。酢には高い健康効果があり、毎日大さじ1杯の酢を飲むと、内臓脂肪を減らしたり、血圧を下げたり、血糖値の上昇を緩やかにしたり、カルシウムの吸収を助けたり、疲労回復を助けたりすると言われています。
・日本酒 ~ あいちの地酒で乾杯! 蔵ごとの個性を飲み比べ ~
日本酒は、日本の風土が生んだ芸術品。お米と水、そして蔵人の情熱が織りなすその味わいは、千差万別です。特に、その土地ならではの素材で造られる「地酒」は、土地独自の文化や風土を色濃く反映しています。
あいちはまさに地酒の宝庫。木曽川や矢作川といった清らかな水、尾張・三河の肥沃な大地で育つ良質な米、そして温暖な気候。これらの恵まれた自然環境が、あいちの酒造りを古くから支えてきました。
あいちの日本酒の歴史は古く、なんと、古事記や日本書紀にもその名が登場するほど。戦国時代には織田信長の清洲城下で酒造業が栄え、江戸時代には尾張藩主が酒造りを奨励し、さらに発展しました。当時、あいちで造られたお酒は、灘(現在の兵庫県)と並ぶほどの人気を集め、江戸へと運ばれたそうです。
現在も、愛知県内には40以上の酒蔵があり、それぞれの個性的な日本酒を造り続けています。名古屋、尾張、知多、三河と、地域ごとに異なる味わいを飲み比べてみるのは、まさに至福のひととき。ぜひ、あなたのお気に入りの一杯を見つけてみてください。
・漬物 〜 漬物王国あいち、世界一長い大根「守口漬」って? ~
あいちは知る人ぞ知る「漬物王国」。
豊富な野菜が取れるあいちでは、江戸時代の終わり頃から漬物作りが盛んになり、色々な種類の美味しい漬物があります。日本一の出荷量を誇ったときもあり、現在でも全国有数の漬物の産地です。
あいちの漬物で一番有名なのは、尾張地方の「守口漬」。ギネス世界記録にも認定された世界一長い大根「守口大根」をくるくる巻いて漬け込みます。その長さは、なんと1.5メートル以上にもなるんだとか!昔は酒粕だけで漬けていたのですが、明治時代にみりん粕も加えて漬ける方法が開発され、今の守口漬になったそうです。
あいちには、守口漬以外にも、美味しい漬物がたくさんあります。西三河地方の「山牛蒡八丁味噌漬」や、東三河地方の「渥美たくあん」も、ぜひ試してみてください。ご飯のお供にはもちろん、お酒のつまみにもピッタリです。
・他にもあるよ発酵食品 〜 昔ながらの納豆や、麹、甘酒も人気! ~
あいちには、これまでご紹介してきたもの以外にも、色々な発酵食品があります。
まずは朝食の定番「納豆」。大豆の産地である愛知県は、納豆の生産量が全国トップクラス。県内の納豆メーカーが全国の品評会で何度も一位になるほど、美味しい納豆が作られています。
ちょっと変わった納豆といえば、豊橋市名産の「濱納豆(はまなっとう)」。これは大豆を粒のまま味噌にして干したもので、1300年も前から作られている伝統的な発酵食です。戦国時代の武将たちも、保存食として重宝していたとか。特に、徳川家康は濱納豆が大好きだったと言われています。
最近、注目を集めているのは「麹(こうじ)」です。発酵食品を作るために欠かせない麹ですが、健康効果や食品を美味しくする効果があると言われています。そのため、塩麹や醤油麹を調味料として使ったり、美容のために甘酒を飲む人が増えています。あいちのスーパーでは、色々な種類の甘酒が売られています。
奥が深いあいちの発酵食の世界。色々な発酵食品を試して、自分のお気に入りを見つけてみてください。
あいちの発酵食文化を巡る旅 ~ 体験・歴史・文化に触れるおすすめスポット ~
ここでは、名古屋から気軽にアクセスできる、あいちの発酵食文化を堪能できるおすすめスポットをご紹介します。
知多半島の中央部に位置する半田市は酒や酢などの醸造業が盛んな地。江戸時代から、運河を通って江戸や大阪へ、酒や酢、木綿などの特産物が運ばれていました。
東海道本線「名古屋」駅から「半田」駅までは約50分。明治43年に設置されたJR最古の跨線橋が残る半田駅から徒歩圏内には、日本で唯一の酢の体験型博物館「MIZKAN MUSEUM」、江戸時代からの伝統の酒づくりを体感できる中埜酒造(なかのしゅぞう)の「國盛 酒の文化館」があります。
運河沿いには、繁栄を極めた醸造業の黒塀囲いの蔵や、明治初期の豪商邸宅が建ち並び、当時の面影が色濃く残されています。
天下人・徳川家康が生まれた岡崎城。そこから西へ八丁(約870m)の距離にある八丁村(現在の八丁町)で作られていたことからその名がついた「八丁味噌」は、他の味噌とは異なり米糠を用いず大豆と水と塩だけで作られています。
名鉄「名古屋」駅から「岡崎公園前」駅まで約20分。駅から5分ほど歩いた先には昔の風情が残された味噌蔵が建ち並ぶ路地があり、ここに昔ながらの製法を守って「八丁味噌」を作り続ける二軒の蔵元が残っています。
江戸時代初期から八丁味噌を造り続けている「カクキュー」の本社屋と史料館は国の登録有形文化財。現在も仕込みに使っている直径6尺もある巨大な木桶が並ぶ味噌蔵は圧巻!仕込み用の蔵を利用した史料館では、昔ながらの味噌づくりの様子を知ることができます。八丁味噌の料理やデザートを楽しめるお食事処も併設しています。
「まるや八丁味噌」は、八丁味噌の製造は江戸時代からですが、創業は南北朝時代の延元2(1337)年にまで遡るそう。こちらでも随時工場見学を受け付けており、アットホームな雰囲気でガイドさんが製造所内を案内してくれます。
どちらの蔵も見学の最後には試食ができ、また、売店が併設されています。同じ味噌でも、蔵により味わいはそれぞれ。食べ比べて、お好みを見つけてみてください。
問い合わせ先
愛知県観光コンベンション局国際観光コンベンション課 魅力発信グループ
電話:052-954-6476
メール:[email protected]
うまみ県あいちの発酵ポータルサイト「あいち発酵食めぐり」
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